経営方針

経営トップ×機関投資家 対談
コア技術に経営資源をフォーカスし、持続可能な社会、多様なステークホルダーになくてはならない企業へ

(2024年12月現在)

「デクセリアルズ統合レポート 2024」の一部を抜粋する形で掲載しております。

持続的成長と企業価値向上の礎を築いた前中期経営計画を経て、さらなる高みを目指す新たな中期経営計画2028『進化の実現』がスタートしました。機関投資家は、デクセリアルズをどのように評価して投資を行い、前中期経営計画の残された課題をどう分析し、新たな計画にどのような期待を寄せているのか。当社と長年にわたりエンゲージメントを重ねてきた、フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・ジャパン(株)代表取締役社長であるカーク・ニューライター氏と、新家由久による対談を行いました。

代表取締役社長

新家 由久

フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・ジャパン株式会社
代表取締役社長

Kirk Neureiter 氏

マネジメントのクオリティ、投資リターン、資本効率の3点を高く評価

新家フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・ジャパン(以下、FMR)様には、当社が上場した2015年から長期にわたりサポートいただいています。上場直後から、投資家の皆さまの期待になかなかお応えできない時期がありました。そういったなかにあっても、これまで株主として、当社への支援を続けてくださっています。

ニューライター投資家として企業を評価する際、まずビジネスモデルとキャッシュ・フロー創出力に注目します。デクセリアルズの場合は、多角的な事業ポートフォリオのなかで、技術力をベースにした競争力の高い製品群を持っています。主力製品の異方性導電膜(ACF)や反射防止フィルムなどは、いずれもマーケットでの世界シェアが高く、この基準を満たしていました。また、主要顧客から高く信頼され、良好な関係が構築できていることや、事業の長期的な成長性も魅力的です。しかし、上場以降、会社がコミットした経営目標に届かず、その理由を「コンシューマーIT市場が飽和しているから」と説明されていました。理由は分析できているものの、業績の改善には結びついていませんでした。貴社とは、なぜ改善が進まないのか、といった議論を何度も重ね、少しずつ改善が見られたものの、明確な結果が出せない状況が続きました。
ところが、2019年に新家さんが社長に就任してから、業績が急激に改善しましたね。2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うコンシューマーIT製品の在宅需要という追い風もあったと思いますが、新家さんの経営改革への情熱と手腕が業績改善のスピードを速め、改革の成果が表れたのだと感じました。これにより、貴社の経営陣に対する評価が高まりました。

新家社長就任直後は、キャッシュ・フローの改善が急務でした。そこで、すべての事業を改めて評価し、経営資源をフォーカスすべき領域に集中投下した結果、EBITDAが大幅に改善し、ROEも一桁台から20%を超えるまでに向上させることができました。

ニューライター投資家として、マネジメントのクオリティ、投資に対するリターン、資本効率の3つの観点から現在のデクセリアルズを高く評価しています。

エンゲージメントにより経営課題を共有
前中計の前半で改革を断行、後半は成長に舵を切り加速度的に成長

新家カークさんと初めてお会いしたのは2019年でした。当時は業績も芳しくなく、カークさんからは厳しいご意見もいただきました。ただ、投資家の皆さまとエンゲージメントを重ねるなかで、いただいた意見を経営に反映させた結果として、経営の質を向上させることができたと自負しています。

ニューライター私たちは貴社のIR活動やエンゲージメントを高く評価しています。この数年間、業績の厳しかった時期も含めて経営層との面談も頻繁に設定していただき、どの質問にも真摯に答えていただけました。幾度もコミュニケーションを重ねたことで、「経営資源が限られているなかで、採算の低い事業は縮小し、コア事業に投資を集中させることが最も重要だ」という認識は共有できたと思います。印象的なのは、前中期経営計画(以下、前中計)の考え方について、新家さんは最初からずっと同じことを言い続けて、ブレずに変わらなかったことです。いつも貴社の製品を高く評価していたので、どこかのタイミングで改革の成果が出るはず、という期待感は変わることはありませんでした。

新家カークさんは一貫して、事業ポートフォリオ管理に関して助言をくださっていましたね。業績回復が始まったころからは、「会社の経営目標がコンサバティブではないか」という指摘もいただきました。私たちには上場直後、市場の期待に応えられない経験もありましたので、外部環境の変化や一定のリスクを考慮しつつ、コミットした経営目標を絶対に達成していくという覚悟で、5年間の前中計に取り組んできました。

ニューライター前中計は3年前倒しで当初目標を達成し、2021年に中計リフレッシュ(アップデート)も発表しましたが、その経営目標も達成されましたね。社内では、想定以上に成長が加速したという認識はあったのでしょうか。

新家前々回の中計期間は3年間でしたが、私が社長に就任した時に5年間に変更しました。「VUCA※1時代」においては、3年という短い期間では未来に向けた大きな方向性を示しづらいと考えたためです。当初公表した経営目標についても、過去の実績から「本当に反省しているのか?」と思われた投資家の方もいらしたかと思いますが、社内で議論を重ね「やるべきことをやれば必ず達成できる数字」という確信がありました。そのうえで、厳しい改革は短期間で断行する必要があると考え、前中計の最初の2年でさまざまな施策を進めてキャッシュ・フローの改善に道筋をつけ、残りの3年は成長に向けて一気にアクセルを踏みました。

ニューライターそのような背景があったのですね。新家さんが社長に就任した当時、PBRは1倍未満でしたね。社内にも危機感はあったのでしょうか?社員にはどんな方向を向いてほしかったのですか。

新家社長就任当時の時価総額は約450億円、PBRは0.9倍程度※2と極めて厳しい状況でした。社内にも強い危機感がありましたし、自らコミットした数字を達成できないことが続いていましたので、社員は自信を失いかけていたように見えました。そこで、就任当初から社員には「世の中の不確実性は高まり、これから何が起きるかわからない。自分たちは何が起きても対応できる筋肉質な会社になって、もっと成長できるよう挑戦していかなければならない」「会社が変わるためには、私たち一人ひとりが変わらなければならない。どうせ変わるなら変化の先頭に立って一緒に変化を楽しもう」と伝え、自分も覚悟を持って取り組んできました。改革を進めるなかで結果が出始めて、社員もマインドが変わっていき、自信を取り戻したのではないかと感じています。

ニューライター最初の2年間で、高い優先度で取り組んだ課題にはどのようなものがありましたか。

新家事業の「選択と集中」も重要なのですが、会社を変えていくためには、まずは経営層から変わる必要があると感じていました。このため、企業価値向上に資するコーポレート・ガバナンス強化に向け、当社の機関設計を監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。そして、経営執行チームの世代交代を行い、経営層を含む全社員に、本当に会社が変わるのだと思ってもらい、変化を志向するマインドの醸成を促しました。加えて、現場と経営の一体化を目指した本社移転、ビジネスモデルの強化、M&Aを始めとする、成長に向けた施策を実施しました。

ニューライター当時はパンデミック、米中対立、サプライチェーンの混乱など、非常に環境の変化が激しい時期でしたね。これからも短期間で大きな変化が起こる状況は続き、リスクマネジメントの重要性は一層増していくでしょう。貴社の新中期経営計画(以下、新中計)でも、リスクマネジメントを行いながら投資リターンをどう高めていくかが問われると思います。

新家おっしゃる通り、今後はさらに多様なリスクを想定してマネジメントしつつ、的確な投資判断を行っていくことが不可欠だと考えています。

  • ※1 VUCA…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)
  • ※2 参考: 2023年度末の時価総額 約4,000億円、PBR 約4.5倍

高い投資リターンを実現するための成長市場の選択に注目

ニューライター投資のリターンを考えるうえでは、どのようなマーケットに参入していくかという選択は重要ですよね。

新家はい。私たちは、自動車産業が大きな変革期を迎えることを見越し、2016年に事業参入しました。業界の技術トレンドにしっかり対応できたことで、自動車関連事業の成長につながり、社員にとって大きな自信となったはずです。

ニューライター貴社の自動車向け事業の主力製品である反射防止フィルムの採用は、現時点では高級車が中心だと思います。今後、ミドルクラスにも展開されれば、ますます事業は成長するのではないでしょうか。

新家おっしゃる通りです。自動車関連事業の成長ストーリーは、ある程度見えてきました。それに加え、前中計期間中に光半導体を手掛ける(株)京都セミコンダクター※3(以下、京セミ)を子会社化しました。フォトニクスを次なる成長領域と定めてのM&Aでした。

ニューライターこれまでコンシューマーIT製品向けに開発してきた材料・デバイスと、京セミの光半導体の技術を組み合わせて、新たなソリューションを提供することも可能になりましたね。

新家フォトニクス事業に参入して分かったのですが、私たちがコンシューマーIT分野で扱う技術と比較すると技術革新の余地が大きく、フォトニクス領域のお客さまに「当社の技術ならこんなことが実現できます」と伝えると、驚かれることもあります。すでに多数の引き合いもいただいており、フォトニクス分野において、当社技術の掛け合わせによる新製品の検討にも着手しています。

ニューライター前中計では、次の成長領域もしっかりと開拓できたということですね。しかし、私としては少し問題意識もあります。というのも前中計では、開始から2年で目標を達成しましたが、その時点で経営方針を変える局面だったはずです。上振れした利益をどう活用するのか、優先順位もつけて説明するなど、投資家に向けて次なる成長方針をもっと明確に示してほしかったという思いがあります。

新家この点は、前中計で残された課題でした。この反省を踏まえ、新中計では成長投資と株主還元を両立できるキャピタル・アロケーションを提示しました。

  • ※3 現・デクセリアルズ フォトニクス ソリューションズ(株)

新中計における成長投資と株主還元の両立に好感

ニューライター新中計におけるキャピタル・アロケーションでは、成長投資(1,300億円)と追加投資枠(500億円)とともに、800億円の株主還元枠をしっかり確保された点に好感を持っています。ただ、あえてもう少し注文をつけると、貴社が得意とする「デザイン・イン」や研究開発が、売上高や利益にどう影響し、それがどの程度投資家に還元されるのか、示してほしかったですね。

新家カークさんたちを始めとする投資家の皆さまからの期待は感じています。ご指摘いただいた点についても、今後、皆さまにお示しできるようにいたします。

ニューライター成長投資では、どのような分野を有力と見ているのか、パイプライン(有力投資候補の案件)も気になるところです。成長ストーリーとともにぜひ伺いたいところです。

新家パイプラインは研究開発段階の案件も含めて複数あり、優先順位や投資を成功させるための戦略を練っています。情報は常にアップデートしており、ある程度確度が高まった段階で皆さまにお伝えする予定です。

ニューライター期待しています。やはり前中計の成功は、得意とする事業や収益性の高い事業をコアに据え、集中して投資したことが大きな要因でした。引き続きデクセリアルズには、コア技術周辺に成長投資を集中していただきたいと考えています。

新家そうですね。今後も私たちの強みを活かし、デクセリアルズにしかできないことを生み出す事業、シングルソースとして製品を提供できる事業に投資を集中していく方針です。

ニューライターそれを聞いて安心しました。ぜひともその姿勢を堅持していただきたいです。

新家先ほど「デザイン・イン」という話がありましたが、これを可能にしているのは、当社の高い技術力と人財です。新中計では、非財務投資として「マテリアリティ」である「技術」と「人財」を中心に、5年間で450億円の投資を設定しました。

ニューライター「技術」「人財」を重要視して、重点的に投資するということは、積極的に発信していくべきですね。

新家新中計の発表に際しては、新たに『Empower Evolution. つなごう、テクノロジーの進化を。』という「パーパス」も発表しました。私たちは、新中計の先も見て、テクノロジーの進化になくてはならない材料・デバイス・ソリューションの提供を通じてより広い領域で社会課題の解決を支え、成長できる会社を目指しています。そして、カークさんを始めとする投資家の皆さま、世界中のお客さま、地域の皆さま、ステークホルダーの皆さまから「なくてはならない会社」として選ばれ、一緒に歩いていく未来を思い描いています。そのためには、事業ポートフォリオを拡大しながらしっかり成長を続けていく。パーパスにはそんな思いが込められており、この目標を実現していくために、バックキャストで「次の5年間でこういったところを目指せるよね」と考えたのが新中計の骨格なのです。

今までになかった製品をつくるからこそ高まる期待
その期待に応えて持続的成長を目指す

ニューライター貴社がこれからどのような新商品・サービスを生み出していくのか、強い関心があります。さまざまな技術を組み合わせた、これからの社会に欠かせない製品・ソリューションを、コンシューマーIT、自動車、フォトニクスへと領域を広げて、新たに市場をつくりながら成長していくのだと思います。他社がこれまでつくってこなかった、誰も思いつかない製品をつくるということで、なかなか想像がつきにくい部分もありますが、だからこそ貴社の製品には「Wow!」があり、貴社への期待も大きくなるという面もあります。その意味で、投資家から見てもデクセリアルズは、資本市場はもちろん、社会になくてはならない大切な会社だと思いますね。これからも貴社の持続的成長に期待しています。

新家投資家の皆さまのなかにもカークさん始め「当社のファン」ともいえる方々が増えていると感じています。KPI未達の時期を経験したからこそ、投資家の皆さまの期待にはきちんと応えなければという思いを持っています。昨日の自分たちを超え、成長し続けられるよう精進してまいりますので、引き続きのご支援をお願いします。